染色体異常と流産の関係

染色体異常と流産の関係_卵子提供

高齢妊娠・染色体異常・流産

流産とは、妊娠22週未満に妊娠が継続できなくなってしまうことをいいます。
胎盤が完成するのは妊娠15週頃までで、実際には多くの流産がその15週目までに起こります。
そして、こうした流産の8割以上が染色体異常に関係があるということが判明しているのです。
ここでは、その染色体異常と流産の関係について説明をしていきたいと思います。

下の図をご覧ください。
日本産婦人科学会公表のデータで、生殖補助医療での年齢別の流産率を赤線で記しました。

流産率・高齢妊娠

35歳頃までは流産率は20%程度となっているのに対して、40歳では35%近く、45歳では70%近い数値となっています。
なぜ年齢が上がるほどに、これほどまでに流産率が高まってくるのでしょうか。


流産が起こる原因としてはさまざまありますが、これらが主なものとなります。
1. 母親の身体に関わる要因
2. 夫婦どちらか遺伝的変異をもっていること
3. 受精卵の染色体異常

中でも卵子の老化の影響として最も大きく現れるのが、染色体異常です。
年齢が上がっていくほどに、胚に染色体異常が起こる割合はどんどんと高まってきます。そして、この場合、多くの原因は卵子の染色体異常にあります。

高齢妊娠と染色体異常

20代から35歳頃までは30%前後の割合であるものが、35歳を超えると割合が高まり、40歳では胚盤胞のうち60%近くが染色体数に異常があるとされています。そして、44歳ではごくわずかの割合しか染色体正常な胚盤胞にならないということが示されています。

なぜ年齢が上がると染色体数に異常が出るのでしょうか

卵子の年齢 = 女性の年齢

卵子を生み出すのは原始卵胞というものが必要となります。
女性が母親のお腹の中にいるときに、この原始卵胞は出来上がり、生まれてきてから新しく作られることはありません。
そのため、原始卵胞や卵子の年齢は女性自身の年齢ということになります。

そして原始卵胞の数は、年齢を重ねるごとにおおよそ下記のようにどんどんと減っていきます。
・600万個: 胎児の状態のとき
・200万個: 生まれたとき
・10万個: 生理が始まったとき

卵子が作られる過程(減数分裂)で異常が起きやすくなる

卵子や精子が作られる過程で染色体には減数分裂という仕組みがあります。
また、原始卵胞の中には、卵子を生み出す卵母細胞というものが存在しています。
この卵母細胞は、排卵までに卵子に育っていかないように、女性がまだ母親のお腹の中にいるときに、減数分裂の途中で長い間ストップされたままとなっています。
途中までは減数分裂をしていたもののですが、減数分裂を終えることなく中断している状態ともいえます。
例えば45歳の方では45年間もの間、ずっと途中で止まったままとなっていて、分裂が再開されることになります。こうした長い休眠期間があることから、分裂が再開されてもうまくいかなくなることは想像できます。
そして、中断している眠りから覚めて、減数分裂を行うときに本来は半分ずつに分かれるはずが、均等に分けることができないということが起こります。
減数分裂がうまくいかなかった卵子は、受精をしても染色体の数が一本多かったり、少なかったりします。
こうしたことによって、染色体数の異常が起こるのです。

精子の場合には男性の加齢が受精卵の染色体異常に関係しない

男性では加齢によって精子の運動力が落ちたりすることがありますが、精子が作られる過程で減数分裂が中断するという場面がないため、精子の染色体異常に関係するということはありません。

染色体異常の胚盤胞を移植するとどうなるのでしょうか

まず、染色体数に異常のある場合には、受精卵が胚盤胞まで育たないことがほとんどです。
胚盤胞まで育ったとしても着床しなかったり、着床したとしても育たずに流産となることが多くあります。

常染色体にモノソミーがある場合には、着床すらしないことがほとんどです。
(※モノソミー・・・本来2対あるべき染色体が1本しかないこと)
そして、トリソミーの場合には多くが流産となります。
(※トリソミー・・・染色体が1本余分に入ること)

染色体には番号がついており、常染色体に異常がある場合でも、赤ちゃんが生まれる可能性があるものの中に下記があります。
・13番染色体のトリソミー(パトー症候群)
・18番染色体のトリソミー(エドワーズ症候群)
・21番染色体のトリソミー(ダウン症候群)

生まれてくる可能性があるといっても、他のトリソミーの染色体異常と同じように、多くは流産となります。
そのためダウン症候群の80%近くは流産、トリソミー13やトリソミー18の場合も95%近くが流産となります。

こうしたことからもわかるように、染色体異常がある場合には多くの場合で着床ができなかったり、流産へとつながっていきます。
胚盤胞を移植しても着床とならない状況が続いたり、流産を繰り返してしまったりしている場合には、染色体異常である可能性が十分にあります。

グレードと染色体異常

よくある相談の中に、グレードの高い胚盤胞がやっと育ち、それを移植しても失敗が続いてしまうということがあります。
全ての原因が胚盤胞の染色体異常に起因するものではありませんが、原因の多くで染色体異常が関わってきていることがあります。
胚盤胞のグレードは、成長度合い、将来胎児になる部分、将来胎盤になる部分の状態を判断してグレードづけされます。ただし、グレードからわかるのはあくまで外観であり、染色体が正常かどうかという中身の部分までは知ることができません。
また、胚盤胞のグレードが高いからといって染色体数が正常であるということとは関連していないこともわかってきました。

年齢と必要な卵子の関係

ここまで染色体異常について説明をしたまとめとして、2019年6月のヨーロッパでの学会「European Society of Human Reproduction and Embryology」で発表されたデータを下記に記載します。
これは染色体も含め正常な胚盤胞を一つ得るために必要となる卵子の数を示しています。

35歳39〜40歳42〜43歳
採卵数61118
成熟卵子5916
受精卵4713
胚盤胞235
正常な染色体の割合60%30%20%
正常な胚盤胞111

大変な思いをして採取した卵子ですが、胚盤胞に育ったというだけではまだ安心することができないのです。
年齢が高くなるほどに、染色体数が正常な胚盤胞は少なくなっていきます。
42歳の方が、正常な胚盤胞を一つ得るには、一般的に採卵で18個もの卵子が必要となるということをこちらでは示しています。

これまで説明をしてきたように、染色体数の正常/異常には年齢がどうしても関わってきます。
年齢による染色体異常の状況など、これらのデータをまずは把握をしていただき、それぞれの方にとって合う妊娠までのプランを立てていけるようになると良いでしょう。

そうしたときに、胚盤胞の染色体異常を特定する着床前診断や、ドナーさんの卵子を使い妊娠をめざす卵子提供も選択肢として考えていくのが良いことと思います。